『文藝通信』(文藝春秋社発行)
直木賞と芥川賞と縁深い雑誌といえば、創設のときから『文藝春秋』『オール讀物』の二誌と相場が決まっている。
しかし、文藝春秋社が当時発行していた雑誌はこれだけではない。
「第三の直木賞・芥川賞機関誌」、その位置に『文藝通信』誌がある。
『文藝通信』昭和10年/1935年2月号(第三巻第二号)
定価十五銭、発行兼印刷兼編集人 菊池武憲、発行所 株式会社文藝春秋社、昭和10年/1935年2月1日発行
目次
- 純文学の近き将来……佐藤春夫
- 行路難……横光利一
- 日常生活……正宗白鳥
- 新年号を読んで
- 佐藤氏の時評……古谷綱武
- 年頭平凡……大岡昇平
- 初段直木三十五を偲ぶ……倉島竹二郎
- 芥川賞を狙ふ人々(同人雑誌新人評)
- 世界文学賞物語
- 大衆文藝の敵は誰だ?
- 眼に見みる三つの敵……濱本浩
- 安易こそ……海音寺潮五郎
- プロレタリヤ文学……北林透馬
- 漫才文壇双六……津隅宇都吉
- 読者通信……宇田川吉太郎
- 新文藝思想講座会員の勝利!……森永武治
- 作家の感想
- 僕の文士印象記――えらい人にあったはなし――……サトウ・ハチロー
- 芥川・直木賞宣言
- 紅茶の後
- 懸賞小説の思ひ出 埋もれて了った作家……文壇数十氏
- 創作二篇
- 崖……中務保二
- 色褪めた風景……末松太郎
※この号での注目は「世界文学賞物語」(無署名)。この段階での文春編集者の文学賞知識が披露されていて面白い。取り上げられている文学賞はノーベル賞、ゴンクール賞、ゲーテ賞其他。冒頭だけ引用しておく。
「日本にもいよいよ文学賞の制度ができた。「芥川賞」「直木賞」がそれである。然しながら、我が国民として今更あんまり大きい声でいへた筋合のもんぢゃない。何故かといふと、一体全体世界の文明国で文学賞のなかった国といふものは、何と、今の今まで我がニッポンだけだったのだ。なにせ、それらしきものすら殆どなかったのだから、チョッとばかり冷汗ものである。
が、それにしても目出度い事には違いないのだ……。」
『文藝通信』昭和10年/1935年9月号(第三巻第九号)
定価十五銭、発行兼印刷兼編集人 菊池武憲、発行所 株式会社文藝春秋社、昭和10年/1935年9月1日発行
目次
- 文藝懇話会に就て……徳田秋声
- 狭い日本文壇……広津和郎
- 作家の感想
- 九月随筆集
- 嬉しかった事・口惜しかった事……文壇諸家
- 主要同人雑誌に聴く
- 日本浪曼派に就て……淀野隆三
- 「麺麭」の立場……編集同人
- 「新思潮」と既成文学……正木雅二郎
- 「翰林」のこと……阪本越郎
- 「劇作」について……菅原卓
- 同人雑誌への反省……横山正美
- 無から有へ……野口富士男
- 我が文学陣……石川利光
- 我見一束……中岡宏夫
- 芥川・直木賞受賞者発表
- 噂の真相を訪ふ記(2)……池内訓夫
- 創作 風薫りて……富本陽子
※第1回直木賞の基礎文献の一つ。決定発表記事は17頁の下半分のみ。石川達三と川口松太郎の顔写真・略歴付き。記事そのものは小さいが、『文藝春秋』本誌とは異なる原稿を使っているため、直木賞研究は文春のみを典拠にしていては駄目なのだと反省させられる。たとえば、直木三十五賞の受賞対象として川口松太郎の名とともに「「風流深川唄」その他」と作品名が明示されている点など。以下引用。
「直木賞に於ては、川口松太郎、濱本浩、中野実、角田喜久雄、海音寺潮五郎、岡戸武平の諸氏が有力な候補に挙げられてゐたが、八月十日最後の委員会に於て協議の結果、午後六時左の如く決定発表した。」
『文藝通信』昭和11年/1936年4月号(第四巻第四号)四月特集号
定価十五銭、発行兼印刷兼編集人 菊池武憲、発行所 株式会社文藝春秋社、昭和11年/1936年4月1日発行
目次
- 同人雑誌検討特集
- 芥川・直木賞第二次発表
- 創作募集案内
- 編集後記
- 作家の感想
- 文藝時評……高見順
- 病臥一週間……板垣直子
- 諷刺の顔……三好十郎
- 夢野久作を悼む……江戸川乱歩
- りてらちゅあ・あとらす
- ダビ雑感……岩田豊雄
- 恐怖の書……千葉静一
- 文藝懇話会損得論……小熊秀雄
- 零塁詞華抄……小島政二郎、三好達治、佐佐木茂索、大鹿卓、田中貢太郎、丸山薫、林房雄、永井龍男、日夏耿之介
- 創作 海鴎の章……今官一
※第2回直木賞の基礎文献の一つ。決定発表記事は最終ページに小さく載り、選考経緯(選評)は無し。鷲尾雨工の略歴のみ併載されている。
以下、編集後記の一部。
「上掲記事の如く第二次芥川直木賞が発表された。これだけの同人雑誌の横行にも拘らず遂に芥川賞授賞者を見つける事が出来なかったのは吾れ人共に三思すべき皮肉な現象ではないか。」
『文藝通信』昭和11年/1936年9月号(第四巻第九号)九月最近文壇図録特集号
定価十五銭、発行兼印刷兼編集人 菊池武憲、発行所 株式会社文藝春秋社、昭和11年/1936年9月1日発行
目次
- 感想ひとつ……大森義太郎
- 第三回芥川龍之介賞 直木三十五賞決定発表
- 芥川・直木賞委員会小記
- 当選者の手記
- 皿(詩)……田中冬二
- 鬼歯朶……丸岡明
- 作家の感想
- 文独通信
- 個人消息
- 文藝一家言
- ジイドの作品に現れた女性……河上徹太郎
- 働く妻と作家達……BBB
- 文藝履歴書 濱本浩の巻
- 特集最近文壇図録
- マイクロフォンの前の文士(続)
- 文藝時評……本多顕彰
- 創作 鴛鴦……大鹿卓
※第3回直木賞の基礎文献の一つ。『文藝春秋』本誌には載っていない海音寺の「寸感」がここで読める。また、決定発表記事に「直木賞の海音寺潮五郎氏は「オール讀物」の「天正女合戦」、「武道伝来記」にて賞を獲得したわけである。」と、作品名が明記されている点にも注目したい。