『群像』平成10年/1998年9月号「侃侃諤諤」

『群像』の匿名コラム「侃侃諤諤」にとって、文学賞に関するゴタゴタは王道ネタである。

第119回(平成10年/1998年上半期)の直木賞芥川賞は、話題性十分の回で、他のメディアもこぞって取り上げた。当然「侃侃諤諤」でもこのあたり、笑い飛ばしてくれている。

『群像』平成10年/1998年9月号(第53巻第9号)

編集人 籠島雅雄、発行人 宮田昭宏、発行所 株式会社講談社、平成10年/1998年8月5日印刷、平成10年/1998年9月1日発行
目次

※この号の「侃侃諤諤」の語り手は「ピカチュウ」。

「こないだ、サトシが読んでいるシンブンをのぞいて見たら、アクタガワ・ナオキ賞の発表があって、アクタガワに藤沢周サンと花村萬月サン、ナオキに車谷長吉サンがなったってでてた。
 サトシに、
「いったい二つの賞はどう違うのでチュか」
 ってたずねたら、サトシは、
「ナオキはいわゆる純文学系の人がもらい、アクタガワはいわゆるエンターテイメント系の作家がもらうんだ」
 と確信をもっていいました。ピカー。いわゆる電気系ねずみポケモンのボク、おぼえちゃった。」

 と、わざとらしい誤認識を披露したあと、「芥川賞」に執着していたはずの車谷長吉が、直木賞受賞を手放しで喜んでいるサマを、こう皮肉っている。

「車谷サンは私小説専門で純文学のパリパリ、こないだもリッパなセンセイ方に、「車谷には伊藤整賞でもヤルか」っていってもらえた作家。でも車谷サンは「私小説作家のことを逃亡ドレイといった伊藤さんの賞なんかボク、イヤダモンネ」といってみんなの目をテンにしたり、「日本文学をダメにしたのは井上靖だ」なんていってのけて、サスガ純文学作家はちがうとカンシンさせたり、ホントに今ドキめずらしく筋をとおすのでも有名。その人が六年かかって書いた作品がナオキになったから「男子の本懐」とカンゲキしたのだし、(引用者後略)」