『群像』平成10年/1998年9月号「侃侃諤諤」
『群像』の匿名コラム「侃侃諤諤」にとって、文学賞に関するゴタゴタは王道ネタである。
第119回(平成10年/1998年上半期)の直木賞・芥川賞は、話題性十分の回で、他のメディアもこぞって取り上げた。当然「侃侃諤諤」でもこのあたり、笑い飛ばしてくれている。
『群像』平成10年/1998年9月号(第53巻第9号)
編集人 籠島雅雄、発行人 宮田昭宏、発行所 株式会社講談社、平成10年/1998年8月5日印刷、平成10年/1998年9月1日発行
目次
- パルチャ打鈴(タリョン)……深沢夏衣
- 千歳の秋……小原眞紀子
- 幽体離脱へ……佐木隆三
- 武器よ、さらば……小田実
- 心臓が二つある河 その一……久間十義
- 共生虫 第五章……村上龍
- 連載
- 随筆
- MY ATLAS
- '98映画の風景(シネマ・ランドスケープ) ゴジラの国際性……山根貞男
- 楽しみの日々(十七)……大庭みな子
- 私的文学論第9回 ある《地獄下り》再審……菅野昭正
- 対談 戦争と滅亡感覚……秋山駿、野坂昭如
- 短期集中連載 トランスクリティーク――カントとマルクス(一)……柄谷行人
- 状況と参加――新しい世紀にむかう韓国と日本の文学……李恢成
- 『鍵』試論――冷戦構造と文学機械……丸川哲史
- 卑しさというエレメント 転形期の思考5……山城むつみ
- 『戦後的思考(一)』への疑問と回答……李順愛、加藤典洋
- ユーモアとしての命名――吉本隆明『アフリカ的段階について』の着地点……中沢新一
- 連載完結 使徒的人間――カール・バルト(二十一)……富岡幸一郎
- 連載
- 書評
- 創作合評第273回 「猫の目」黒川創、「日蝕」平野啓一郎……岡松和夫、坂上弘、井口時男
- 侃侃諤諤
- 第四十二回群像新人文学賞募集
- 表紙……藤田吉香
- 扉・目次カット……長谷川洋子
- 本文カット……辻晴子・船田正廣
- AD……北本裕章(ピカソ)
※この号の「侃侃諤諤」の語り手は「ピカチュウ」。
「こないだ、サトシが読んでいるシンブンをのぞいて見たら、アクタガワ・ナオキ賞の発表があって、アクタガワに藤沢周サンと花村萬月サン、ナオキに車谷長吉サンがなったってでてた。
サトシに、
「いったい二つの賞はどう違うのでチュか」
ってたずねたら、サトシは、
「ナオキはいわゆる純文学系の人がもらい、アクタガワはいわゆるエンターテイメント系の作家がもらうんだ」
と確信をもっていいました。ピカー。いわゆる電気系ねずみポケモンのボク、おぼえちゃった。」
と、わざとらしい誤認識を披露したあと、「芥川賞」に執着していたはずの車谷長吉が、直木賞受賞を手放しで喜んでいるサマを、こう皮肉っている。
「車谷サンは私小説専門で純文学のパリパリ、こないだもリッパなセンセイ方に、「車谷には伊藤整賞でもヤルか」っていってもらえた作家。でも車谷サンは「私小説作家のことを逃亡ドレイといった伊藤さんの賞なんかボク、イヤダモンネ」といってみんなの目をテンにしたり、「日本文学をダメにしたのは井上靖だ」なんていってのけて、サスガ純文学作家はちがうとカンシンさせたり、ホントに今ドキめずらしく筋をとおすのでも有名。その人が六年かかって書いた作品がナオキになったから「男子の本懐」とカンゲキしたのだし、(引用者後略)」