三浦浩・著『司馬遼太郎とそのヒーロー』所収 福田みどり「「あとがき」にかえて――赤いタバコの無言劇」
司馬遼太郎(本名・福田定一)は産経新聞の文化部で働いていた。隣の席の向かいには、のちに妻となる松見みどりが座っていた。
そして、その司馬の隣の席というのが、誰あろう、のちの直木賞候補作家、三浦浩だった。
三浦は司馬に関する著書を幾冊か編著、または著している。その最後となった『司馬遼太郎とそのヒーロー』は、三浦が没した平成10年/1998年3月より後に刊行された。司馬の妻、福田みどりが「「あとがき」にかえて」を寄せている。
『司馬遼太郎とそのヒーロー』
著者 三浦浩、発行所 有限会社大村書店、平成10年/1998年8月・初版第一刷発行
目次
- I・司馬遼太郎とそのヒーロー
- II・司馬遼太郎と私
- III・三人の作家を惜しんで――池波正太郎 司馬遼太郎 藤沢周平――
- 藤沢さんの「癒し」(上)(下)
- 独学について(上)(下)
- 司馬さんの「知恵」
- 周五郎の存在
- 報酬とチップ
- 悪について
- テレビドラマ
- 故人たちへの感謝
- 「あとがき」にかえて――赤いタバコの無言劇……福田みどり
※三浦浩がはじめて直木賞候補になったのは第76回(昭和51年/1976年下半期)。候補作は『さらば静かなる時』である。福田みどりはこう回想する。
「私は、三浦さんの小説を、もっと読みたかった。司馬さんも私も、その小説を一冊残らず読んだ。たしか四回にわたって直木賞候補にあげられているが、最初の『さらば静かなる時』の選考委員会の夜、連絡を待ちながら、私は生まれて初めてお酒に酔った。酩酊の感覚を知ったのは、この夜が最初である。
残念ながら、どの作品も受賞をのがしたが、私は、どの作品にも、どうしようもない魅力を感じた。あのけむったような陰影と、あのちょっと表現し難い独特の香気はsexyとさえ言ってよいだろう。とにかく面白かった。小説の醍醐味を存分に味うことができた。それが、もう読めないのかと思うと、あらためて、悲しみがこみあげてくる。」
ちなみにその回、司馬遼太郎は選考委員会に出席している。ぞくぞくする光景である。