『北の文学』第55号(平成19年/2007年11月)「三好京三氏追悼特集」
彼は岩手県の有力文藝誌『北の文学』から作家人生をスタートさせ、一時休刊となっていた同誌が昭和55年/1980年に復刊すると、編集委員を引き受けた。
以後、長きにわたって編集委員を務め、岩手の地で新進作家の育成に大きな功績をのこしている。
三好京三が亡くなったあと、『北の文学』第55号は追悼特集を組んだ。
『北の文学』第55号
発行人 三浦宏、発行所 岩手日報社、定価1,155円、平成19年/2007年11月15日発行
目次
- 巻頭コラム
- 遊園地の夢……石野文香
- 三好京三氏追悼特集
- 短歌
- 秋日抄……松田久恵
- 入選作・小説
- 和山街道……佐藤純公
- 千年の途中……菅原裕紀
- 俳句
- 新蕎麦……村松正規
- 入選作・小説
- 「命」拾い……藤島三四郎
- 川柳
- 休耕田……佐藤昭一
- 入選作・小説
- 『キツネ沢』……清水渡
- 逃亡の町で……浅沼誠子
- 詩
- なくならない……板垣崇志
- 選考経過・選評……三編集委員
- エッセー
- 点心……今野紀昭
- 村人たち……野中康行
- 夏の日に……白金英美
- 目は語る……大木戸浩子
- 投稿
- 心に残る言葉 五編
- 維持会員の名簿・編集後記
- 表紙絵……菅田篤
- イラスト……杉本吉武・吉田好晴・馬淵ひろみ・吉田康男・柴田外男・小坂修治
※追悼文を寄稿したのは6名。ここでは、三好の直木賞受賞から15年後、同じく直木賞を受賞した高橋克彦の文を引用する。
「個人的なことを言うなら、三好さんは私の大きな道標でもあった。
あれは私がデビューして二年やそこらのことだったと思う。柔道家三船久蔵の人生を描いた『琥珀の技』の出版と作家生活十年の祝いの会が久慈市で開催された。私もそれに招かれ、いろいろな人たちの祝辞を耳にしているうち、十年もばりばりの現役でいる凄さを思い知らされた。(引用者中略)いくつかの連載を抱えて毎日へとへとになっている私には、この暮らしを十年続ける自信がとても持てなかった。その持続力の強さにまず驚嘆し、次に十年過ぎてもなお中央の一流出版社(『琥珀の技』は文藝春秋社刊)から書き下ろしの依頼があることの凄さと実力に打ちのめされた。私などたかだか二年。残る八年を書き続ける気力がもしあったとしても、依頼があるかどうかは分からない。作家は読者と出版社あって成立する仕事である。当人の思いなどなんの意味もない。呑気に同席している気分ではなくなった。
(引用者中略)
もしあの祝いの会での三好さんの晴れ晴れとした顔を見ていなければ、私は道標をそれからも永く見付けられなかったはずだ。忙しさに音を上げ、苦しさから手を抜くようになり、やがては書くことの意味も失い、作家でなくなっていたかも知れない。十年を嬉しそうに噛み締めていた三好さんがあればこそ、私も踏ん張ることができた。私も今年で早や二十五年。三好さんに感謝しないといけない。」