笹森貞二「私と津軽書房」(『年輪』所収)
青森の出版社、津軽書房が15周年を迎えた昭和54年/1979年、『年輪』というエッセイ集が出された。
同社に関わりの深い人たち28人と、社主・高橋彰一が15年を振り返って原稿を寄せている。
平井信作、佐藤善一、長部日出雄、左館秀之助と、直木賞候補者(および受賞者)4人がそこに加わっていて嬉しい。
『年輪―津軽書房十五年―』
編者 千葉寿夫、発行所 津軽書房、頒価九五〇円、昭和54年/1979年8月4日発行
目次
- 魂の伝道者……小野吾郎
- 寸感……今泉幹一郎
- 東京時代……工藤英寿
- 本町坂のころ……荒井秀実
- 草創期のことなど……山田尚
- 回想……高木恭造
- 乙乙録……小野正文
- 本・金・酒・女……藤田龍雄
- 高橋さんのこと……上岡悦子
- あこがれ……黒田朋子
- 肉、食えるんだぞ……泉谷明
- 高橋彰一頌……泉谷栄
- 走れ 高橋さん……斎藤せつ子
- 艶笑譚と津軽書房……平井信作
- 不思議な魅力……藤沢美雄
- 元服……佐藤善一
- 容貌魁偉……工藤与志男
- 津軽書房と民話……北彰介
- 継続は力なり……長部日出雄
- 津軽根性書房との間……庄司力蔵
- 不義理と夢と……左館秀之助
- 私と津軽書房……笹森貞二
- 「絵葉書」の高橋さん……赤石宏
- 処女出版……鳴海裕行
- 雑感……久藤達郎
- 高橋と両親……千葉寿夫
- 十五周年のよろこび……横山武夫
- 本造りに憑かれた男の話……相馬正一
- 十五年間……高橋彰一
- 津軽書房出版総目録
- あとがき
- 題字……横山武夫
※うち、弘前市教育長を務めた笹森貞二の「私と津軽書房」から引用する。笹森は津軽書房から『教育長日記』を出版、短歌や俳句に興味をもち、高橋彰一の編集する同人誌『心象』に参加した。その彼が、直木賞・芥川賞について語っている。
「お世辞でなく言えることは、彼(引用者注:高橋彰一)はさすがに文士を志して上京しただけに、明治大正から現代に至るまで、東西の文芸に通じ、しかも、批評眼が冴えていることであると思う。
長部日出雄の『津軽世去れ節』が直木賞を射止めたのも、平井信作の『生柿吾三郎の税金闘争』、小田原金一の『北辺の嵐』が直木賞候補にあげられたのも、彼はその値打を評価して出品したためかと思う。
直木賞にしても、芥川賞にしても文章を書くものとしては一度は受賞してみたい魅力がある。しかし高橋氏は一向に私の文章などは何の賞にも出品しようとはしない。高橋氏の目には、私などまだまだ幼稚に見えるからであろう。残念だけれど、高橋の目はそれだけ肥えている。
太宰治ではないが、どうか私に芥川賞を下さいと川端康成に書翰を送ったように、私も高橋氏にどうか何賞でもよいからつけて作家の仲間に入れて下さいと言おうかと思ったりする。しかし古稀の齢を過ぎて何ですかと高橋氏ににたにた笑われるのが何ともはや、いやなことである。」
ちょっとした勘違いが含まれているようにも思うが、洒落なのかマジなのか。判然としない。